万年筆の仕組み
万年筆で文字を書く仕組みは、一見複雑なように思えますが、パーツごとの機能を理解することで全体像をつかむことができます。
ここでは、万年筆の各パーツがインクを供給するためにどのような機能を持っているかをご説明し、文字が書ける流れをご紹介します。
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万年筆で文字が書ける仕組みの概要
万年筆で文字が書ける仕組みについて、このページではそれぞれの部位ごとに詳しく紹介していますが、細かく見ていくと複雑に見えますので、最初にに全体の仕組みを箇条書きでシンプルにご紹介します。
前提として、インクがタンク内に充填されている状態をスタートとします。
- タンク内のインクがペン芯のインク溝を伝わって流れ出る(毛細管現象)
- タンク内の空気圧はペン芯の空気溝を伝わってタンク内部に送られることで調節される
- 流れ出たインクはペン先のハート穴に到達する
- 切り割りを伝わってペン先の先端に向けてインクが伝わる(毛細管現象)
- ペンポイントに到達したインクを紙に押し当てることで文字が書ける
この一連の流れが絶え間なく続くことによって、文字を書き続けることができます。
ペン芯の役割とは?
万年筆のペン先へのインク供給に重要な役割を果たしているのがペン芯の構造です。ペン芯はタンク内のインクを毛細管現象と気液交換によって引き出し、ペン先へと供給しています。
毛細管現象の応用
ペン芯には細い管(毛細管)が備わっており、表面張力を根底原理とした毛細管現象によって、加圧を伴わずに液体が流れ伝わる方法を採用しています。
インクなどを含め基本的に液体には吸着力がありますが、細い管の先端に液体をつけると、液体が管の内面を濡らす力によって液体が進んで(管の中を流れて)いきます。
ペン芯の細い管はタンク内のインクに触れているため、管の中をインクが伝ってペン先の方へと伝わっていきます。また、ある程度であれば重力よりも毛細管現象による液体の移行力の方が強いため、ペンを上に向けていても液体が伝わっていきます。
気液交換の応用
インクと空気が効率的にタンク内外を移行し、圧力の変化を伴わないようにするために、インクが出る管とは別に空位の通り道を確保しています。
インクが出るのに対して空気が入らないような構造だと、タンク内の気圧が減少し、インクの詰まりや逆流が生じてしまいます。
飛行機や山頂などの高所で外気圧が低下した場合、タンク内の気圧は通常通りなため、勢いよくインクが飛び出してしまいます。そこで、ペン芯に細い溝(くし溝)を切り、余分に引き出されたインクが溝に保持されるような工夫が施されています。これにより、インクのボタ落ちを防いでいます。
ペン先の役割とは?
万年筆の書き味は、ペン先の性能により大きく左右されます。
ハート穴の役割
切り割りの終点に穴が開いていますが、これはペン先のしなりとしての機能の他に、ペン芯から送り出されたインクを受け止める部分にあたります。ペン芯からのインクはハート穴を介して切り割りに流れ込むためにも重要です。また、タンク内の気圧調整に必要なペン芯の空気穴は、このハート穴付近に位置します。
時々、ハート穴からインクが滲み出てしまうという質問がありますが、むしろ滲むくらいの方が調整としては適切であるため、むやみにふき取る必要はありません。
切り割りの役割
ペン先にもペン芯と同様に毛細管現象を利用した構造が採用されています。こちらは管ではなく、先端からの切れ込み(切り割り)の間を伝わることで、先端までインクが供給されます。
ペン先の切り割りの根本(ハート穴)にペン芯からのインクが付着すると、切り割り(ここでいう毛細管の位置づけ)を伝ってペン先の先端に向かってインクが移行していきます。これにより、紙がインクを吸収するとすぐに後ろからインクが伝わってくるので、スムーズに筆記することが可能になります。
ペンポイントの役割
切り割りを伝わってきたインクはペン先の金属球であるペンポイントに付着します。この部分を紙に付着させることにより文字を書くことができます。
紙に吸い取られたインクは、その吸い取る力によって切り割りから新たなインクの供給を促します。
切り割りにはハート穴から、ハート穴にはペン芯の先端から、ペン芯の先端にはタンクの中から、最終的にタンク内のインクと置き換わるのは、ハート穴付近に開いたペン芯の空気穴から流入した空気に置換されることで、文字を書き続けることができます。