ピレスロイド剤?リン剤?殺虫剤の成分や効果と仕組み
日常生活において害が強いゴキブリ・蚊・ハエ・ダニなどに殺虫効果のあるもののほかにも、白アリ・アブラムシなどに殺虫効果のあるものなど、家庭用の色々な種類の殺虫剤が現在販売されています。殺虫剤の成分には、主に有機塩素剤・有機リン剤・カーバメート剤・ピレスロイド剤・IGR剤・ネオニコチロイド剤があります。
それぞれの殺虫剤の成分によっても、効果のある害虫や効果のない害虫があり、また特定の時期に使用しないと効果のない殺虫剤などがあります。薬剤の特徴に合わせて使用することで、より害虫を確実に殺虫することができるのです。ここでは、ピレスロイド剤?リン剤?殺虫剤の成分や効果と仕組みについて詳しくご紹介していきたいと思います。
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殺虫剤の成分と効果
殺虫剤の成分は主に以下のようなものがあります。
- 有機塩素剤
- 有機リン剤
- カーバメート剤
- ピレスロイド剤
- IGR剤
- ネオニコチロイド剤
ここでは、これらの主な殺虫剤の成分について詳しく解説していきます。
有機塩素剤
有機塩素剤は、塩素を含んだ薬剤です。速効性があり効き目も高かったのですが、体内への蓄積性も高いため1970年までにほとんどの有機塩素剤は日本では製造・使用禁止となっています。
有機リン剤
1930年にドイツで発明された有機リン剤は、マラソン乳剤やスミチオン乳剤、ダントツ水溶液に主に含まれており、速効性を有する有機リン系の殺虫剤です。 適用作物が広く使いやすいなどの特徴があります。有機リン剤系殺虫剤の主な有効成分は、ジクロルボス・ダイアジノン・フェニトロチオン・クロルピリホスメチル・プロペタンホスなどが挙げられます。いずれも残効制は低いです。
日本では1950年代に稲の主要害虫であるニカメイチュウの防除薬として使用されたのが始まりです。野菜や果樹の害虫駆除に現在でも使用されており、薬液に直接害虫が接触することによって、害虫の体内に取り込まれます。体内に取り込まれると、虫の神経系のアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害をして、中毒症状を引き起こして最終的には死に至ります。
一般的にピレストロイド系の殺虫剤よりも、殺虫力は強く、ゴキブリ、ハエ、カなどの成虫・幼虫の駆除に使用される成分です。
世界的に有機リン酸系の使用量を削減する動きのほか、農薬登録を更新する際の費用がかかりすぎるので、有機リン剤のような古い薬剤は採算性を考えた場合、継続して販売することが困難になり登録を縮小したり生産終了し、最近は有機リン剤の使用は減少傾向にあります。
カーバメート剤
カーバメート系殺虫剤はカルバミン酸がエステル化したもので、化学構造式にリンや塩素を含まない殺虫成分です。有機リン系殺虫剤と同様に、コリンエステラーゼの働きを阻害して、害虫を麻痺させて殺虫します。浸透移行性の高い薬剤が多く、葉の表面にかけるだけで、葉の裏側にいる害虫にも効果があります。
アブラムシやカイガラムシ、コウチュウ目やチョウ目害虫など幅広い害虫に効果があります。また、速効的な効果が期待できる物が多く、少量でも殺虫効果がありますが残効性が短い物が多いのも特徴です。農薬では数多く使用されていますが、防疫用で使用されている成分の種類は限られており、主なカーバメート系殺虫剤の有効成分は、プロポクスルです。
ピレスロイド剤
スプレータイプから設置型まで様々な殺虫剤に使用されているピレスロイド剤。様々な虫に効果を発揮し、とても短い時間で虫の活動を停止する働きのある、除虫菊(シロバナムシヨケギク)の花に含まれる天然の殺虫成分であるピレトリンと言われる成分を元に、化学構造的に類似した合成化合物群を含んだ殺虫成分が、ピレスロイド剤です。
一般的に、ピレスロイド系殺虫剤は速効性に優れており、薬剤に触れた害虫は神経が過剰に興奮して微量でもノックダウンする効果があります。そのため、アブラムシ類、チョウ目、ウンカ類、アザミウマ類などの害虫駆除に向いています。処理面に対して忌避したり、潜伏場所から害虫を追い出したりするフラッシングとしても利用されているところも特徴の1つです。
人畜に対する毒性は相対的に低いのに対し、魚毒性が高いため使用場所に注意する必要があります。ピレスロイド系殺虫剤の主な有効成分は、ピレトリン・フェノトリン・ペルメトリン・フタルスリン・エトフェンプロックスなどが挙げられます。
IGR剤
昆虫成長制御剤とも呼ばれているIGR剤は、害虫の特定の時期にのみ作用します。害虫の変態や脱皮をコントロールしているホルモンのバランスを狂わせて、昆虫の脱皮や羽化を妨げ、死に至らせる殺虫剤です。このIGR剤は、大きく分けて2つに分類されます。
1つ目は、虫の皮膚の成分であるキチン質の生成を妨げて殺虫するIGRのキチン合成阻害剤です。このキチン合成阻害剤を使用すると、害虫がキチン質を生成できないので、脱皮が出来なくなる、もしくは脱皮をしても干からびて死に至らせます。脱皮時のみに効果があるので、害虫が脱皮するまで待つ必要があります。ユスリカやチョウバエの幼虫が生息する水域に散布すると駆除が出来ます。
2つ目は、昆虫のホルモンを乱し、殺虫効果を示す薬剤であるIGRの昆虫ホルモン剤です。脱皮や変態には特定のホルモンが必要ですが、この昆虫ホルモン剤を使用すると、脱皮を促進による殺虫効果や、頭の部分だけ脱皮せずに餓死させる効果があります。脱皮を促進させる薬剤なのでキチン合成阻害剤に比べても処理後は早く効果が表れます。
どちらのIGR剤も、効果が出るまでに時間がかかるので予防的に使用することが多く見られます。また、哺乳類に対する毒性がほとんどないので、安全性が高いのも特徴です。IGR剤の主な有効成分は、ジフルベンズロン・ピリプロキシフェン・メトプレンが挙げられます。
ネオニコチロイド剤
タバコに含まれるニコチンと似た構造をもち、新しいニコチン構造を持つという意味で名づけられたネオニコチノイド剤は、浸透移行性に優れています。また、害虫に対して強い神経毒性を持ち、害虫が薬剤に触れるか、食害により口から摂取すると速効的に効果が表れます。神経を麻痺させて殺虫し、有機リン・合成ピレスロイドとは作用する部分が異なっているので、これらの薬剤に抵抗性を持つ害虫にも高い効果が期待出来ます。
また、人畜に対する安全性は非常に高く、他の薬剤に比べても残効性が高いことも特徴の1つです。忌避性がなく、主に白アリ防除剤として使用されていますが、アブラムシ類、アザミウマ類、チョウ目類、ウンカ類、コウチュウ類など幅広い害虫に効果があります。
ネオニコチノイド系殺虫剤の主な有効成分は、チアメトキサム・イミダクロプリド・ジノテフランがあります。
殺虫剤の仕組み
現在発売されている殺虫剤には色々な種類があり、その効果は殺虫成分によっても大きく異なってきます。殺虫剤が害虫に効く仕組みは様々で、神経系に作用、エネルギー系に作用、害虫の成長を阻害するものなど殺虫剤によって異なります。
主に家庭用の殺虫剤に含まれているのは神経系に麻痺を起こさせて殺虫するものです。この薬剤が害虫にかかったり、害虫が吸引すると、体が痺れて飛んだり歩いたり出来なくなったりします。他に呼吸作用に関わるミトコンドリアの電子伝達系阻害を引き起こして殺虫するタイプのものは、アブラムシやアザミウマ類,ダニなど多くの害虫に対して殺虫効果があります。
また、脱皮をさせないようにしたり、脱皮を促進させて無理やりサナギにしたりなど、害虫のホルモン異常を引き起こして殺虫したりします。殺虫剤の働き方も、体に触れるだけでも効果のある接触性のものや、食害によって効果を表すものなど色々な種類があります。このタイプの殺虫剤は、主にコナジラミ類、カイガラムシ類の若齢幼虫に対して効果がありますが、成虫には効果がありません。